皆さんこんにちは。
東京都足立区を拠点に、東京都や神奈川県、埼玉県、千葉県で鳶工事などを手掛けている株式会社黒沼建設です。
鳶職人は高所作業のプロフェッショナルであり、その作業内容は多岐にわたります。中でも、基本的かつ重要な作業の1つが「玉掛け」です。玉掛けは初心者の頃から行う仕事ですが、安全上とても重要な作業なので、しっかりとスキルを身につける必要があります。ここでは、玉掛けの作業内容や使用する道具、作業に従事するために必要な資格などについて解説します。
■玉掛けとは?
玉掛けとは、クレーンなどのフックに物を掛けたり外したりする作業のことです。主に建設現場や工場において、資材や機械などの重い荷物をクレーンで持ち上げて運搬する際に行われます。
玉掛けは、一見簡単に思えるかもしれませんが、現場の安全を守る上で重要な意味を持っています。なぜなら、適切な掛け方をしなければ、重い荷物が落下するおそれがあるからです。荷物が落下すれば、荷物の破損や作業員の負傷を招き、最悪の場合は命に関わるケースもあります。
このようなトラブルを防ぐためにも、正しい方法で玉掛けを行わなければならないのです。そのため、玉掛け作業に従事する際には、特定の資格(特別教育・技能講習の受講)が必要になります。資格の講習では、玉掛けに使うロープの強度や長さ、荷物の角度・バランスなど、さまざまな知識と技術を学びます。しっかりとスキルを身につけた上で作業に当たりましょう。
また、玉掛けはワイヤーで物をかけることもそうですが、クレーンを動かす、手合図、無線機を使って揚重することも玉掛けの大事な仕事になります。講習ではクレーンについてや合図の方法も学びます。クレーンの運転とも密接に関係しており、クレーンの運転免許は玉掛けとは別の資格ですが、両方持っていると役立つ場面は多く、クレーン運転の知識や経験があれば玉掛けへの理解も深まります。可能ならクレーンの運転免許も取得しておくのがおすすめです。
ところで、なぜ荷物の掛け外し作業が「玉」掛けと呼ばれているのでしょうか? はっきりとした由来はわかっていませんが、有力視されているのは掛け軸の備品に由来するという説です。
掛け軸を掛ける時は、下側の軸の両端に風鎮(ふうちん)を取り付けます。風鎮には翡翠(ひすい)や瑪瑙(めのう)、琥珀(こはく)といった宝石(=玉)が使われており、紐によって軸にぶら下げます。その様子に似ていることから、フックに荷物を掛ける作業を「玉掛け」と呼ぶようになったといわれているのです。
■玉掛け作業で使用する用具
玉掛け作業では、重い荷物をフックに確実に固定するために、適切な用具を使用する必要があります。玉掛けに使われる主な用具をご紹介します。
◯ワイヤロープ
ワイヤロープは、最もポピュラーな玉掛け用具です。どんなロープでもいいわけではなく、「安全係数」が6以上の強度を備えていなければならないと定められています(クレーン等安全規則第213条)。また、エンドレスワイヤロープを除き、両端にフック、シャックル、リングまたはアイを備えたものでなければならないという規定もあります(同第219条)。
アイというのは、ワイヤロープの端を輪にしたものです。アイの作り方には、ワイヤロープを構成するストランドを編み込んで作る「アイスプライス(編み込み)加工」と、アルミ管にロープを入れプレス機で圧縮・固定する「ロック(圧縮止め)加工」の2種類があります。アイスプライス加工は対応力の高さ、ロック加工は製作効率や強度の高さが特長です。
◯ベルトスリング
ベルトスリングとは、高強度の繊維でできたベルト状の紐のことです。ワイヤロープに比べると、軽くて柔軟性も高いので扱いやすく、荷物を傷つけません。そのため、効率を重視する場合や頻繁に掛け外しをする場合に向いています。
ただし、熱に弱いのに加え、鋭利な荷物に掛ける場合は保護具を使用する必要があります。状況に応じてワイヤロープと使い分けることが大切です。
これらの他に、クランプ、ハッカー、吊りビームといった用具を使うこともあります。どの用具を使うかは、吊り上げる荷物の重量、形状、大きさなどから判断します。
■玉掛けの作業方法の種類
玉掛け作業は、フックにワイヤロープを掛ける作業と、吊り荷にワイヤロープを掛ける作業に大きく分けられます。作業方法にはいくつかの種類があり、状況に応じて使い分ける必要があります。フックに掛ける方法と吊り荷に掛ける方法に分けて、主な作業方法を見ていきましょう。
◯フックに掛ける方法
フックに掛ける方法は4種類あります。強度や作業の難易度がそれぞれ異なり、意外と奥が深い作業です。それぞれの特徴をご紹介します。
・目掛け
フックにワイヤロープのアイを掛ける方法です。最も標準的かつ安全な方法ですが、形状が非対称の荷物には適していません。なお、使用するワイヤロープの数は必要に応じて増やし、本数によって「1本づり」「2本づり」「4本づり」などと表現します。他の方法でも同様です。
・半掛け
フックにワイヤロープのアイを掛けない方法です。荷物側につり手がある場合や、定型的な荷物の玉掛けに適しています。一方、重心が中心部にない荷物や、重心の位置が高い荷物には適していません。
・あだ巻き掛け
ワイヤロープを1回転させてフックに巻きつける方法です。1回転させている分、半掛けに比べてワイヤロープが滑りにくく、安定性が高いのがメリットです。
ただし、ワイヤロープに癖がついてしまうため、玉掛け作業が終わった後はワイヤロープを修正しなければなりません。また、太いワイヤロープには使えない他、フック上でロープが重ならないように注意する必要もあります。
・肩掛け
フックの肩の部分にワイヤロープを巻きつける方法です。ロープは基本的に1本だけ使用します。
同じくロープを巻き付けるあだ巻き掛けと比較すると、ワイヤロープに癖がつきにくいのがメリットです。ワイヤロープを修正する必要がない分、作業時間を削減できます。その反面、フック上でロープの重なりが起きてしまい、ロープが擦れて荷物が落下する可能性がある点に注意が必要です。
◯吊り荷に掛ける方法
吊り荷に掛ける方法も、同じく4種類あります。それぞれの特徴は以下の通りです。
・目掛け
荷物につり手がある場合に使える方法で、つり手にワイヤロープのアイを掛けます。扱いやすく便利で、左右対称など定型的な形状の荷物に適しています。
欠点は、ワイヤロープが緩むと荷物が落下する可能性があることです。また、つり荷側が目掛けでフック側が半掛けだと、荷物の偏り具合などによっては落下のリスクが高くなります。
・半掛け
ワイヤロープを荷物に回して掛ける方法です。最もシンプルで扱いやすい方法ですが、つり角度が大きくなると不安定になりやすいという短所があります。つり角度が大きい場合は、どうしてもワイヤロープが中心に寄ってきてしまうので、荷物が滑らないよう注意が必要です。
・目通し(絞り)
アイにロープを通して輪を作り、そこに荷物を掛ける方法です。荷物の絞り込みによって摩擦力が増し、つり荷とワイヤロープの滑りを防ぐことができます。ただし、絞り込まれた部分のワイヤロープが傷みやすい点に注意が必要です。
・あだ巻き掛け
ワイヤロープを1回転させて荷物に巻きつける方法です。フック側のあだ巻き掛けと同じで滑りにくく、長尺物の荷物に適しています。デメリットは、荷物の下にワイヤロープを2回通さなければならず、掛ける際も外す際も手間がかかることです。
■玉掛け作業に必要な資格と取得方法
最初に解説した通り、玉掛け作業は現場の安全に関わる作業なので、従事する際は特定の資格が必要です。玉掛け作業に必要な資格には、「玉掛け特別教育」と「玉掛け技能講習」の2種類があり、講習を受けると取得できます。受講資格は特に設けられておらず、18歳以上の方なら誰でも受講することが可能です。
また、2種類の資格は、玉掛けをするクレーンの「吊り上げ荷重」が1t未満か1t以上かによって区別されています(掛け外しする荷物の重量ではない点に注意)。それぞれの内容や講習内容について見ていきましょう。
◯吊り上げ荷重1t未満のクレーンなら「玉掛け特別教育」
吊り上げ荷重が1t未満のクレーンに玉掛けをする場合は、資格が必須というわけではありません。無資格で作業に従事することも可能です。しかし、一定の知識や技術がないと正確な作業が難しいことから、実際には「玉掛け特別教育」の受講が推奨されています。
玉掛け特別教育の講習内容は、学科講習が5時間、実技講習が4時間の計9時間です。通常は2日間かけて行われ、学科講習ではクレーン・力学・玉掛けの方法・関連法令などについて学びます。試験はなく、講習を終えれば修了証が発行され、玉掛け作業に従事できるようになります。受講料はテキスト代込みで1万5,000円〜2万円程度です。
◯吊り上げ荷重1t以上のクレーンなら「玉掛け技能講習」
吊り上げ荷重1t以上のクレーンに玉掛けを行う場合は、「玉掛け技能講習」を修了している必要があります。講習内容は学科講習が12時間、実技講習が7時間の計19時間です。玉掛け特別教育に比べると、より範囲が広く深い知識を学びます。通常は3日間かけて行われ、学科・実技それぞれで行われる修了試験に合格すると資格を取得できます。受講料はテキスト代込みで2万円〜3万円程度です
また、クレーン運転士免許を持っている方や、小型移動式クレーン運転技能講習を修了している方などは、一部の科目が免除されます。保有する資格が免除対象になっているかどうかを、申し込む前に確認しておきましょう。
なお、一定以上の規模の建設現場で作業する時は、ほとんどの場合において玉掛け技能講習が必要になります。玉掛け特別教育だと、どうしても働ける現場が制限されてしまうので、基本的には玉掛け技能講習を修了した方がいいでしょう。合格率は95%以上と非常に高く、しっかりと講義を聞いていれば基本的に合格できます。
■まとめ
玉掛けは、鳶職人として働くなら毎日のように行うことになる作業です。未経験者が鳶工事会社に入社した時は、可能な限り早い段階で玉掛けの資格を取得し、玉掛け作業をできるようにする必要があります。
重量物の玉掛け作業は危険を伴うため、絶対に落下しないようにしなければなりません。玉掛けを正確に、そしてスピーディーに行えるようになることが、初心者の最初の目標といってもいいでしょう。鳶工事以外にもさまざまな場面で役立つので、積極的に玉掛けスキルを磨いてみてください。
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